リン酸処理に関するまとめ
金属表面処理、特に塗装前処理の工程で使われるリン酸処理についてのまとめです。
リン酸処理とは
リン酸処理とは、広義では複数の処理方法を指します。リン酸による酸洗(酸洗い)を指す場面もありますが、ここではリン酸塩処理についてのまとめをご紹介します。
金属加工処理において、リン酸塩処理は鋼鉄や亜鉛などの金属の表面部分にリン酸亜鉛やリン酸鉄などの金属塩による皮膜を作るもので、代表的な化成処理の方法です。
日本工業規格では、JISK 3151(1996)に「塗装下地用リン酸塩化成処理剤」という規定もあります。
- リン酸塩処理の効果
リン酸塩処理をすることで、被処理物の表面にはリン酸塩の皮膜が化成します。用途により処理の目的や効果は変わりますが、塗装をする鉄鋼製品の多くは、塗装下地として塗膜の密着性や耐食性等の向上のためにリン酸塩処理が利用されます。 - リン酸塩処理の加工方法
リン酸塩処理の一般的な処理工程は、脱脂→水洗→表面調整→皮膜化成→水洗→乾燥→塗装→焼付となります。一番最初に行われる脱脂は重要で、リン酸塩皮膜の仕上がりだけでなく、塗装の仕上がりにまで影響します。これらの工程は多くの場合、スプレー処理や浸漬処理でリン酸塩処理をします。リン酸塩皮膜剤で建浴した液(=加工液)を使用しますが、薬剤毎に使用条件は設定されていて、最も重要な項目として薬剤の濃度と温度、処理時間が挙げられます。良好なリン酸塩皮膜の仕上がりを得るためには他にも重要な項目がありますが、この3つの項目は特に重要で、基準となる範囲から逸脱した場合はリン酸塩皮膜が全く化成しないこともあります。
リン酸塩処理の目的とメカニズム
リン酸塩処理を施す目的には下記のようなものがあります。
- 塗装下地用
塗装下地用として施されるリン酸塩処理を行う多くの場合は、塗膜と金属との密着性と耐食性の向上を目的として施されます。先に挙げたJISK 3151(1996)に「塗装下地用リン酸塩化成処理剤」ではリン酸塩皮膜の種類毎に下記のように主な用途が記載されています。規格の中で分類がされていますが、あくまで目安です。塗装下地用途としてリン酸塩処理剤の改良やリン酸塩以外の処理剤の開発が進められていることから、塗装下地処理剤の選定は要求性能の他、ワークの材質や処理方法、処理コストなどを元に選定することが大切です。 - 塑性加工用
リン酸塩皮膜の持つ可塑性を使用する目的で施されます。特にリン酸亜鉛系皮膜が採用されます。塑性加工時に潤滑剤と共に使用されます。 - 防錆用
塗装した状態、或いは塗装していない状態での防錆を目的として施されます。塗装下地として利用されるリン酸鉄皮膜とリン酸亜鉛皮膜では、基本的にリン酸亜鉛系皮膜の方が耐食性は良好で、リン酸亜鉛系皮膜の耐食性は皮膜の性状(結晶サイズや均一性、付着量など)と塗装される場合はその塗料との組合せに左右されます。 - 耐摩耗用
主にリン酸マンガン皮膜が採用され、金属製品の摺動部の部品に対して利用される場合があります。リン酸亜鉛系皮膜と比較した場合にリン酸マンガン皮膜の方が硬いため採用されます。 - その他
その他にも、絶縁性の付与やリン酸塩皮膜の外観をデザインとして利用する目的などで利用される場合があります。
皮膜の種類や使用する薬剤などで変わる部分もありますが、リン酸塩皮膜処理をしたときに起こる反応は次のような流れになります。
- 皮膜剤による金属素地のエッチング反応(酸の消費)
- 反応部分周辺の薬液pHの上昇
- pH上昇によって不溶化したリン酸塩の金属素地上への析出
ワーク、金属の表面はミクロな視点で見た場合は均一ではなく、このような皮膜化成反応は➀の反応が起きやすい場所から起こり周辺へ広がっていいきます。化学反応のひとつである皮膜化成反応の進み具合は、反応速度を決める要因である濃度と温度、そいsて反応に掛ける時間に大きく影響を受けるため、皮膜化成工程において非常に大切な管理項目になります。
リン酸塩処理の種類とそれぞれの特徴
リン酸塩処理、化成する皮膜の種類によって以下のような種類があります。基本的にいずれの処理においても適用素材は鉄鋼製品となります。
リン酸鉄処理
リン酸鉄処理は、リン酸塩の一種であるリン酸鉄を主成分としたリン酸鉄皮膜を化成する処理です。後述のリン酸亜鉛皮膜と比較すると耐食性は劣りますが、液管理が簡便、且つコストが低いことから、リン酸鉄皮膜で耐食性を満足する製品に対して採用されます。ワークに付着している油分が軽微な場合には、添加剤と併用して脱脂と皮膜化成を同時に行う脱脂化成として工程の短縮が可能なことも利点となります。屋内使用製品の場合は、リン酸鉄皮膜による耐食性で十分な場合が多いため採用されます。
リン酸亜鉛処理
リン酸亜鉛処理は、リン酸塩の一つであるリン酸亜鉛を主成分としたリン酸亜鉛皮膜を化成する処理です。標準的な処理工程はリン酸鉄処理より長く、且つ管理項目も多くなりますが、涼子応な耐食性能を有する皮膜を化成します。自動車をはじめとした高耐食性を要求される鉄鋼製品に対して採用される処理です。処理方式や薬剤成分によって、皮膜結晶の形状や質、厚さなどが変わりま、適する塗料や耐食性の点で違いが出ます。
リン酸マンガン処理
リン酸マンガン処理は、リン酸塩の一種であるリン酸マンガンを主成分とするリン酸マンガン皮膜を化成する処理です。標準的な工程はリン酸亜鉛と同様ですが、表面調整工程や皮膜化成工程で使用する薬剤成分がリン酸マンガン処理用の成分となります。また、リン酸マンガン処理は、リン酸亜鉛処理と比べるとより高い温度で行う必要があります。耐摩耗性に優れ、潤滑作用を大きくする特色があるため、主に、耐摩耗皮膜や潤滑用皮膜として用いられます。
以上のように用途や要求性能によって適したリン酸塩皮膜を選定、使用することが大切です。