スラッジ
スラッジは泥状の産業滓あるいは廃水処理殿物等の一般的呼称です。金属を表面処理する際の酸洗い工程や、水と接するボイラー、船舶あるいはタンク類等の金属質の表面が剥離堆積して泥状となったものを一般にスラッジとよびます。この場合、主成分は金属またはその化合物です。
一方、産業廃水の処理工程では、定められた排水基準に従って廃水中の有機および無機含有物を除くため、生物化学的処理あるいは物理化学的処理が行われます。前者は活性汚泥法がもっとも多く用いられ、この処理でBOD(生物化学的酸素要求量bio-chemical oxygen demand)の90%以上が除去されます。しかし金属イオンなどを含む場合にはさらにpH調整、中和沈殿等の物理化学的処理を行う必要があります。これらいずれの工程でもスラッジの生成があるため、その処理や利用が問題となります。また、粗金属の電解精製の際、電気化学的に貴な物質が電解液に溶出することなく残留した、いわゆるアノードスライムanode slime(陽極泥)も広い意味でスラッジとよばれることがあります。
およそ考えるすべての金属製品には切削やめっき処理、塗装等の金属表面処理が行われていて、特にめっきを行う際には素材の研磨や、脱脂、洗浄、活性化、めっき処理、乾燥と数々の工程があります。この全ての工程においてスラッジが排出され、それらは排水と混ざり、産業廃棄物として捨てられる場合が多かったのですが、近年は排水の中から濃度の高いスラッジを抽出し、金属資源として再利用する技術も生み出されています。
リン酸塩処理では、その反応機構から少なからずスラッジが発生します。中でも、リン酸亜鉛処理ではスラッジの発生量が多く、仕上がりや工程の稼働に影響がでる程に溜まってしまうケースがあります。リン酸亜鉛処理設備では、スラッジを沈降分離するためのセットリングタンクがあるのが一般的です。ライン停止後にセットリングタンクに移送してスラッジを沈降分離して回収します。ライン稼働中にスラッジを除去する連続セットリングタンクを設置する場合もあります。連続セットリングタンクを使用する場合、同時にスラッジを脱水するためのフィルター装置と組み合わされます。
リン酸亜鉛処理では、スラッジは必ずついて回る課題となります。化成皮膜の性能を確保するためにスラッジを受け入れる場合がほとんどです。可能な場合は、スラッジ発生量の少ないリン酸亜鉛皮膜剤へ切り替えるケースもあります。最近では、スラッジ発生量が大幅に少ないジルコニウム皮膜剤を採用するケースもあります。
工場設備にとっては悪影響を及ぼしかねないスラッジですが、清掃処理技術や再利用技術の発展にもつながっており、またそれらが新たなビジネスとして経済的効果も生み出しています。